義胡府国風土記~旅と外出~

5年間放置していました

西日本豪雨災害ボランティアの経験譚

この一年(2018年)、西日本豪雨の被害に見舞われた岡山県に度々足を運び、微力ながらも被災された方々のお手伝いをさせて頂きました。デリケートな地域に足を運んだので写真などはむやみに撮影しておらず、上手く伝えられるか分かりませんが書き記しておこうと思います。

◆◆忘れられた被災地、笠岡市での活動

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長閑な田園ですが一面浸水したそうです。

最初は東北の被災地や鬼怒川の氾濫の際にお世話になった愛知ボランティアセンターの活動に参加して笠岡市に2回ほど伺い、その後は個人的に倉敷市真備地区で活動をしました。

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住宅はむやみに撮影出来ないが、周囲のほぼ全てが床上まで浸水している。

 

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ぱっと見痕跡はありませんが所々土砂が堆積していました。

当時の報道では、数千戸が浸水し、自衛隊による救助や、道路脇に積み上げられた被災ゴミの様子など、ビジュアル的にインパクトのある真備町に関するものが圧倒的に多く、笠岡市や周辺の矢掛町などは全く報道もされず、笠岡市ではボランティアセンターを立ち上げても初日は数名しか来なかった・・・という事でした。

 

「人も物も報道も関心も真備ばっかり」という雰囲気でしたが、ボラセンの責任者の方が言うには、浮いたタンスの上で二日間立ったまま救助を持った高齢者がいたりと、世間の関心が薄い地域であっても被害は甚大で、地獄絵図のようだったと教えてくれました。

 

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他人のお宅の床に穴を空けるのは思いの他勇気がいります。

笠岡では床下に潜っての泥出しなどを行いましたが、身長が高いと床下で思うように身動きが取れず、酸素も心なしか薄く感じるので思っている以上に恐怖を伴う作業でした。

 

最初はたった半日の活動時間でどれほどの事が出来るのだろうと途方に暮れていましたが、素人のパワーもあなどれないもので、活動した二日とも与えられた任務以上の事をやり遂げる事が出来、家主の方にも多いに喜んで頂く事が出来たので、一同安堵の胸を撫で下ろして名古屋に戻って来る事が出来ました。

 

◆◆倉敷のゲストハウス有隣庵と被災地真備地区

その後、笠岡市のボランティアセンターも役目を終えて発展的に閉鎖したというのは風の噂に聞いたのですが、真備の状況はどうなのだろうかと色々調べていると、まだまだボランティアを受け入れているという事でした。2018年の9月頃の話です。

 

2回も笠岡に行ったので懐具合も寒い状況だったのですが、倉敷~名古屋は夜行バスも有り、比較的安価な値段で往来する事が出来、更に調べるとボランティア用に安い値段で宿泊出来るプランを提供しているゲストハウスを見つけ、個人として被災地に入る事にしました。1回の交通費と宿泊費が1万円に満たないのはありがたかったです。

 

 

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最初のボランティアセンター(活動終了後なので閑散としている)。

初めて真備のボランティアに参加したのは2018年の9月。当時は新幹線の新倉敷駅の近くにボランティアセンターがあり、そこで簡単な説明とチーム分けをしバスに乗って向かうという流れで真備町に向かっていました。チーム分けと言っても、5脚ごとに設置されたパイプ椅子に座った5人がその日のチーム。経験値も性別も体力も関係無し、なんとなく投げやりなチーム分けに思いますが、全く問題無く活動する事が出来ました。

 

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ボランティアなのに色々ともてなして頂き、スタッフの方の献身さも活動の原動力になりました。

被災から2か月近く経っていましたが、まだボランティアは一日数百人ほどが訪れていました。それでもボランティア参加者の数はだいぶ少なくなった・・・という事で、最盛期には一日に数千人が参加していたという事でした。

 

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「皆、真備ばかりに行ってしまう」

 

笠岡で聞いた言葉が頭の中に残っていたし、連日数千人が訪れていたのだから、大方片付いているのかなと思っていたのですが、実際に真備の街に足を踏み入れてみると、道路わきに山のように積み上げられていた被災ゴミは見当たらなくなってはいたものの、どの家も床や壁が剥がされたハリボテ状態。全ての家が生気の無い感じで何だかパラレルワールドに紛れ込んでしまったかのようでした。

 

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閑散として埃っぽい真備の街。写真では伝わらない異様な雰囲気でした。


 津波や土砂災害で家も街も丸ごと流されてしまうような災害もつらいけど、ある程度の段階からは重機を使って更地にしてから復興に取り掛かる事が出来る。けれども今回の真備の水害はそういう事が出来無い。家はあるけど2階にすら住めない・・・復興に取り掛かろうにも更地にする訳にもいかず、多くの手間と人出を必要とするのでとにかく時間が掛かる。不謹慎かもしれませんが自分が被災者だったらいっそのこと濁流で家ごと流されてしまった方が楽で良かったと思ってしまうかもしれない・・・・それほど真備の浸水被害は稀有で甚大、よくある大雨の浸水被害とはスケールが違いすぎると感じました。

 

例えるならば津波や土砂災害は外傷、真備の水害は質の悪い長患いのようです。

 

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堤防の決壊、越水箇所がいたるところにありました。

被災ゴミが壁のように道路わきに積み上げられている光景は目にしなくなりましたが、まだそのまま部屋に残っているお宅もあれば、庭にそのままのお宅もあります。初日にゲストハウスで一緒になったボランティアの方は、2階で浸水したピアノを下に降ろすという業者並みのミッションを行ったという事で、這う這うの体で帰って来て「死ぬほど重かった」とぐったりしていましたが、完遂出来た充実感も感じているようでした。

   

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この風景が一面2階までの高さまで浸水した

2018年は9月、10月、11月と3回ほど活動させて頂きました。だいたい5人一組でチームを組んで被災者のお宅に向かうのですが、ボランティア経験の豊富な人の方が少なく、自分以外の全員が初めてのボランティアというケースが多々ありました。でも振り返るとそのようなチームの方が、己の力不足を自覚しているので皆さんよく話を聞き、事あるごとに話し合うのでむしろ作業がはかどる感じでした。

 

逆に経験豊富な人がいると勝手にどんどん進めてしまい、さっきやった所を作業したりする等無駄が生じ、話し合わないので組織が硬直化していく感じがして、まるで会社組織のようでした(個人の感想です)。

 

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皆素人ですが、ボラセンから与えられる道具が適切でありがたかったです。

 

結局のところボランティアに経験値はあまり関係が無く、よく休憩してよく話し合うのが最も大切だと思います(休憩は本当に大事!!)。もしボランティアに興味があるのに「何だか大変そうだな」「やった事ないから難しそうだな」と思っている方がいたら、全くそういう事はなくむしろ未経験者求む!ですので、躊躇せず是非参加して欲しいと思います。女性の方も体力に自信が無くても被害に遭われた方(特に高齢者)の話に耳を傾ける傾聴活動なんかも立派なボランティアです、問答無用で力仕事を任されるわけではないので是非興味のある方は挑戦して欲しいと思います。

 

※但し、ボランティアに参加する際は必ず現地の社会福祉協議会が開設するものに参加する事をお勧めします。信頼できる民間の団体もありますが、不透明な寄付金や現地のニーズを把握せずむやみやたらに物資を集め、本当にそれ被災地持ってくの?な団体もありますので公的機関のものに参加する事を強くお勧めします。東日本大震災や熊本自身の際など交付金補助金目当てに暗躍した団体もあるし、知らず知らずのうちに火事場泥棒に加担している事は避けなければいけません。

 

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こういう現場にはボランティアは行かない。楽そうだけど。

 

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秋頃になるとボランティアの人数は少なくなってきましたが、それでも少なからずいて、一緒に活動させて頂きました。

 

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昼の有隣庵。夜は第二形態のゲストハウスに変化しますが外観はこのままです。

当時拠点としていたゲストハウス有隣庵

ボランティアは1泊2000円という破格の値段で宿泊を提供して頂き多くのボランティアがこのゲストハウスを拠点にして真備で活動し被災地復興の為に汗を流しました。

 

有隣庵がボランティア活動の敷居を下げ、参加しやすい環境を整えてくれた事は、多くの人に知ってもらいたい立派な被災地支援であり、後方支援とはいえその貢献度は計り知れないと思います。

しかしながらコロナ禍でゲストハウスは惜しまれつつ閉業してしまいました。

 

しかし、有隣庵自体は今でもカフェや岡山の色々を販売するショップとして盛業中ですので、是非足を運んで頂きたいと思います。

 

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ガラッと扉を開けるとすぐ共有スペースがある有隣庵。

 

 

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共有スペースが入り口に近いゲストハウスは居心地が良い(タカギ調べ)

昼間、被災地で汗を流し、夜は海外からの旅人と片言ですらない英語で互いの文化を語り合う貴重な経験はゲストハウスならではでした。

 

特にフランス人と同宿になる事が多く、ボランティアの話をすると「他人の為にそんな事をする文化はフランスに無い」ような事を言われましたが、翻訳アプリがどこまで正しいのか分からないので全く違う事を言っていたのかもしれません。

 

でも「こいつ変わってんな」みたいな反応であったのは確かです。

 

因みに「有隣」という言葉の意味を調べると「徳のある人の周囲には同類のものが自然に集まる事」とありました。名は体を表す・・・様々な人々の人生が一瞬交差する、本当に素敵な宿であったと思います。

 

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◆◆年が明け、2019年再び被災地へ。

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真備への足、井原鉄道。近代的なローカル線で快適。


もう一度話を被災地に戻すと・・・冬は仕事が忙しいのでボランティアはお休みでしたが、春になって再び伺う事にしました。前回のブログで紹介した3月のKITEさんのイベントの前日にも真備で活動してから福岡に向かいました。

http://takagikofu.hatenablog.com/entry/kite ☜KITEさんのイベント

 

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未だに集積場は被災ゴミの山

まもなく災害から一年が経つという初夏の頃でも、床や壁を剥がしたり、汚れた壁を拭いたりと、初めて参加した際と変わらない内容の活動が続いていました。それはボランティアを頼む事を知らなかった高齢者や、何とか自分たちで頑張って来たけど、とうとう手に負えなくなってボランティアを頼んだという方がいたという事でした。情報は必ずしも平等に伝わらないし、ボランティア=素人なので信用できないという認識もあったのだと思います。

 

又、春先は倉庫や蔵の片づけという案件が続いた事も印象的でした。水害が起こり先ず優先されるのは住居。当然、蔵や倉庫は後回しにされます。

 

男九人がかりで丸々二日間かけてようやく片付ける事が出来た農家の蔵は、2階にまで物がギッシリ詰まっているばかりが、四十年分の新聞を捨てずに保管していて、それらが10か月近く水に浸かったまま放置されているという地獄絵図。最近もう一回別途被災したのではないかと思うようなあり様で、蛇やネズミが出てくる腐ったようなゴミの山から出土するスポーツ新聞の見出しが「カープ優勝(恐らく古葉監督の時代)」「元木プロ入り1号」だったりと時空さえも歪んだ中での作業でした。

 

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田舎の倉庫は様々なものが出土する。1973年の手帳(未使用)

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90歳のお婆さんが所有者の倉庫。もうだいぶ片付いたの図。

6月に担当した依頼主が90歳のお婆さんの案件も倉庫の片づけでしたが、わざわざ朝我々に挨拶に来てくれて心にグッとくるものがありました。

 

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90歳のお婆さんが所有者の倉庫。ピカピカの図。

正直なところ6月の段階で、もう真備に来るのはこれが最後でいいかなと思っていたのですが、90歳のお婆さんの姿を見てしまうと、まだまだ手が回っていない現場があるのではないかと思い、とことん最後までやってみようと考えを改め、その後も7月、8月、9月と足を運びました。バス代と宿代が安いので助かりました・・・

 

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被災から1年以上経ってもこの状態・・・

9月になるとさすがにボランティアの依頼も少なくなってきているようでしたが、最後に伺ったお宅は床も壁も無い有様でした。ここからは我々素人の出番ではなく業者の役目なのだと思うけど、果たしてすぐに取り掛かってくれるのか、そう思うとまだまだ道半ば、門外漢ではあるけれど途方に暮れてしまいそうです・・・・

 

 現状は9月の訪問が最後、今後訪れるかは未定ですが、こんなに多く真備で活動するなんて夢にも思っていませんでした。普段世の中の生産に全く関わっていないような仕事をしているのですが、少しでも世間に貢献できる活動をしたいという思いがあるのは確かなのですが、自分でも想定外だと感じますが時間とお金の使い方としては悪くはないかな・・・と思っています。

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実は千葉にも行っている。

実はつい先日も台風15号の被害に見舞われた千葉県に行って微力ながら活動させて頂きました。安い宿泊料で倉敷に何泊もして招かざる客だったかもしれませんが、せめてもの罪滅ぼしとして千葉の被災地で恩返しをさせて頂きました。

 

そして有隣庵で一緒に活動したボランティアの方も何人かが既に千葉に入って活動しています。災害ボランティア×ゲストハウスは財布に優しい復興支援。少しでも多くの支援の輪が広がればいいなと思います。

 

そしてまた倉敷には近いうちにお邪魔します。

 

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次回はもう少し綺麗な写真でお届け予定

 

※ついでに倉敷岡山の素敵なスポットやクセのあるスポットを紹介しようと思いましたが、相変わらず簡潔に書けない悪い癖で長々なってしまったのでまた「次回に続く」という事で今回はこの辺で。